注射による治療が美容外科で使われ始めたのは、眉間のシワやほうれい線などを目立たなくするための薬液注入、いわゆるプチ整形の初めの頃でした。当初よく用いられていたのはコラーゲンで、人体への親和性という点で優れていたのは間違いないのですが、体質によってまれにアレルギー症状を併発する場合があり、さらに安全性の高いヒアルロン酸が注入物質の主流を占めるようになります。このヒアルロン酸がプチ整形全般に広く用いられ、プチ整形における豊胸にも採用されることになったのでした。
豊胸にヒアルロン酸を用いる治療では、一度に注入できる量に限りがあるとはいえ、確実に1サイズ〜2サイズのバストアップが可能であり、ある程度土台のバストがある人なら、より理想のバストラインに近づけることが可能となります。皮下脂肪が極端に少なく、いわゆる洗濯板状態の人の場合、残念ながら極端な効果は期待できませんから、むしろ人工乳腺のインプラントが推奨される場合がほとんどのようです。
ヒアルロン酸による豊胸が優れているのは、何よりその安全性です。ただ、親和性に優れているということはすなわち人体に容易に吸収されてしまうということでもあり、効果は数か月程度しか持続しません。もっともこれはかえってプチ整形の利点とも言えるわけで、切らずに、短期間限定で必要な効果を得られるという気安さ、手軽さに繋がったわけです。夏の薄着の期間だけ、ワンサイズのバストアップを望むなら、あるいは襟ぐりの深いドレスを着る機会の多いシーズンだけ胸の谷間を強調したい、といったニーズに、まさにぴったりの豊胸であったわけです。
ヒアルロン酸による豊胸の利点はまだあります。短時間で治療ができ、しかもダウンタイムがいらないので、週末の会社帰りにちょっと豊胸、なんてことも可能なのです。「来週同窓会がある」「急に泳ぎに行くことになった」などといった緊急事態でも、落ち着いて対応することができてしまうのです。
そんなお手軽なヒアルロン酸注入による豊胸ですが、技術的には実は大変高度なものが要求されます。ユーザー本人の、現在のバストラインを基に、どの部分にどれくらいの分量のヒアルロン酸を注入すればいいのか、という「匙加減」が実に難しいのです。あくまで自然で美しいバストラインを実現する、理想の補正が出来るか否かは、ドクターの美的センスによるところも大きいわけです。そういう意味で、呼び名こそプチ整形ですが、日本の美容外科の技量は実に驚くべきものなのです。